天才と呼ばれた男
2007.06.11 Mon
重たそうに引きずられる足、閃光のインパクト、野手の届かぬ空間を裂く打球。 彼のことを人は「天才」と呼ぶ。磨きぬかれた打撃技術で塁上の彼の表情とは対照的にボールパークは沸き上がる。 小学校の時、広島戦を観に行った。記憶に残っている初めての野球観戦。そのころの広島カープは、外野が緒方、金本、そして彼。ショートに野村、セカンドには正田がまだやっていた。とにかく、外野のメンツが凄かった。いまでは金本は阪神へ移籍して人気選手だけど、あのときはよく知らなかった。緒方がスゴいことはなぜか知っていた。彼はまったく印象がない。 彼の野球に対する気持ちは世界一だと思う。きっと世界中探しても彼以上の選手はいない。というよりいて欲しくない。ヒット打っても、ホームランを量産しても喜ぶことなく、己の野球を追求していく。こんな選手がメジャーでも何人いるのだろうか。 いつかこんな選手になりたい。ただ単純に憧れてプレーした。イチローのバットを立てて、袖をまくるルーティーンを真似する野球少年たちと同様に、彼のバッティングを、彼の理想の打球を追求する姿を模倣した。 彼は『バッティングは好きだが、野球自体は好きではない』と明言する。彼の場合、相次ぐ足の怪我によってバッティングぐらいしか満足のゆくプレーができないからとも考えられる。きっと、思うようにできない自分が嫌いなんだと思う。 今年の彼は全試合出場した。といっても終盤、打席が回らなくなったら交代した試合が結構あった。そんな彼に対して不満がないわけではない。最後までプレーして欲しい。それでこそ彼の目指すべき野球。けれど、それまでの打席で見せてくれたモノを考えればそこは我慢してもいい。ヒットが打ててなくてもいい。空振り三振でも、ボテボテの内野ゴロで全力疾走を怠ってアウトになってもいい。 ただ彼がポールパークにいて、彼の背中に背番号1が輝いていればいい。 いつか優勝して笑っている彼を見たい。遠慮しながらも仲間とビールかけしているところを見てみたい。 塁上でガッツポーズしているような彼は見たくない。けれど、彼がガッツポーズしたくなるような打球を観てみたい。 ボクらには決して届かないところへ消えて往く打球を。 (以前書いたのをもう一度更新しました。自分では結構気に入っている文章なので最近読んでくださっている方にも読んでほしいと思いまして。)

